機械製図では、寸法だけでなく「精度」に関する情報を正しく伝えることが不可欠です。部品の機能や互換性、加工品質を保証するためには、幾何公差・はめ合い公差・表面粗さの記入が必要であり、JIS(日本産業規格)ではそれぞれに明確なルールが定められています。
本記事では、JIS規格に基づく幾何公差・はめ合い公差・表面粗さの意味と記入方法、ISOとの違い、そして実務での注意点について詳しく解説します。

1. 幾何公差とは何か?
幾何公差(Geometric Tolerance)は、部品の形状・位置・姿勢に関する許容範囲を示すもので、寸法だけでは表現できない「形の精度」を定義します。
主な幾何公差の種類
公差の種類 | 意味 | 記号 |
---|---|---|
真直度 | 線がまっすぐであること | Ⓛ |
平面度 | 面が平らであること | Ⓕ |
円筒度 | 円柱が均一であること | ⓒ |
同心度 | 軸が中心に揃っていること | ⓔ |
位置度 | 穴や形状の位置精度 | ⓟ |
傾斜度 | 指定角度に対する傾き | ⓣ |
記入方法(JIS B 0021準拠)
- 公差枠(長方形)内に記号・数値・基準を記載
- 対象形状の寸法線付近に配置
- 基準面には「基準記号(A、B、Cなど)」を付ける
2. はめ合い公差とは何か?
はめ合い公差(Fit Tolerance)は、軸と穴などの組み合わせにおける寸法の許容差を定義するもので、部品の嵌合状態(すきま・圧入など)を制御します。
公差の表記方法(JIS B 0401準拠)
- 基本寸法の後に「公差記号」を付ける(例:φ20 H7/g6)
- 軸側:小文字(例:g6)、穴側:大文字(例:H7)
- 数値はJIS表に基づき、等級(IT)で精度を管理
はめ合いの種類と代表記号
はめ合いの種類 | 特徴 | 代表記号 | 用途例 |
---|---|---|---|
すきまばめ | 軸が穴より小さい | H7/g6, H7/h6 | 回転軸、スライド部品 |
中間ばめ | 軸と穴がほぼ同寸 | H7/k6 | 精密嵌合、位置決め |
しまりばめ | 軸が穴より大きい | H7/p6, H7/s6 | 圧入、固定部品 |
3. 表面粗さとは何か?
表面粗さ(Surface Roughness)は、加工面の滑らかさを数値で示すもので、摩擦・耐久性・密着性などに影響します。
表記方法(JIS B 0601準拠)
- 記号「┴」または「⌯」を使用
- 数値は「Ra(算術平均粗さ)」で表記(例:Ra 3.2)
- 必要に応じて加工方法(研削・切削など)を併記
表面粗さの目安
Ra値(μm) | 加工方法 | 用途例 |
---|---|---|
0.2〜0.8 | 研削・ラップ | 精密部品、軸受 |
1.6〜3.2 | 切削 | 一般機械部品 |
6.3〜12.5 | 鋳造・鍛造 | 粗加工部品、外観不要部位 |
4. JISとISOの違い(公差・粗さ)
JISとISOは基本的に整合していますが、表記方法や記号に若干の違いがあります。
項目 | JIS | ISO |
---|---|---|
幾何公差 | JIS B 0021 | ISO 1101 |
はめ合い公差 | JIS B 0401 | ISO 286 |
表面粗さ | JIS B 0601 | ISO 1302 |
記号の配置 | 寸法線付近 | 同様だが柔軟性あり |
海外との図面交換では、ISO準拠の記号や表記に変換する必要があるため、CAD設定や凡例の明示が重要です。
5. 実務での注意点とチェックリスト
- 幾何公差は「機能に必要な最小限」にとどめる
- はめ合い公差は「加工方法とコスト」を考慮して選定
- 表面粗さは「性能要求」と「加工能力」のバランスを取る
- 公差記号は図面凡例や注記で統一し、誤解を防ぐ
- CADテンプレートや社内ルールを整備して品質を安定化
公差等級(IT等級)の選定は、加工コストと品質のバランスを取る上で非常に重要です。必要以上に厳しい公差を設定すると、加工難易度が上がり、コストが増加する可能性があります。
結論
幾何公差・はめ合い公差・表面粗さは、機械製図における「精度の言語」であり、設計品質と製造効率を左右する重要な要素です。JIS規格に基づいた正しい記入と使い分けを理解することで、部品の機能保証とトラブル防止が可能になります。
IDEA Groupでは、JIS規格に準拠した製図ルールを徹底し、公差管理と表面品質の標準化を支援しています。図面の精度向上や設計業務の効率化に関するご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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