機械製図では、寸法や形状だけでなく「文字(もじ)」と「記号(きごう)」によって多くの情報が伝達されます。これらは図面の読みやすさ、正確性、国際対応力に直結する要素であり、JIS(日本産業規格)では使用方法や書体、サイズ、配置に関する詳細なルールが定められています。
本記事では、JIS規格に基づく文字と記号の基本ルール、使用例、ISOとの違い、そして実務での注意点について詳しく解説します。

1. 図面における文字の役割
文字は、寸法値・注記・材質・公差・表面処理など、図面上の定性的・定量的情報を伝えるために使用されます。読みやすく、誤解のない表記が求められます。
JIS規格で定められた文字の基本
- 書体:JIS Z 8317に準拠した「ゴシック体」が標準
- サイズ:用紙サイズや図面密度に応じて2.5mm〜5mmが一般的
- 太さ:線種とのバランスを考慮し、細線よりやや太めが望ましい
- 配置:寸法値は寸法線の中央上部、注記は対象形状の近くに配置
CAD環境でもフォントを統一することで、図面品質が安定します。
2. 図面における記号の役割
記号は、複雑な情報を簡潔に表現するための「視覚言語」です。JISでは、各種記号の形状・意味・配置方法が定義されています。
主な記号と用途(機能別分類)
JIS製図では、記号は機能別に分類されており、以下のような代表的な記号が使用されます:
記号 | 意味 | 用途例 |
---|---|---|
⯈ | 投影法(第三角法) | 表題欄に記載必須 |
⌀ | 直径 | 穴や円柱の寸法(例:⌀20) |
R | 半径 | 曲面や円弧の寸法(例:R10) |
M | メートルねじ | ねじの種類(例:M6) |
S / t | 板厚 | 材料の厚さ(例:S2.0、t1.5) |
± | 公差 | 寸法の許容範囲(例:±0.1) |
Ⓛ, Ⓕ, ⓒ | 幾何公差 | 真直度・平面度・円筒度など |
⌯, ┴ | 表面粗さ | Ra値と併記する(例:Ra 3.2) |
⧍, ⧫ | 溶接記号 | 片側・両側溶接を示す(JIS Z 3021準拠) |
3. 記号の配置と記入ルール
- 寸法記号(⌀、Rなど)は寸法値の前に記載
- 公差記号(±)は寸法値の後に記載
- 幾何公差記号は公差枠内に記載し、基準記号とセットで使用
- 表面粗さ記号は対象面の近くに配置し、Ra値を併記
- 投影法記号は表題欄に必ず記載(⯈:第三角法)
- 溶接記号は接合部の近くに配置し、方法・位置・仕上げを明示
4. JISとISOの違い(文字・記号)
項目 | JIS | ISO |
---|---|---|
書体 | ゴシック体(JIS Z 8317) | ISO 3098に準拠(類似) |
記号の形状 | JIS B 0001で定義 | ISO 1101、ISO 1302などで定義 |
表記言語 | 日本語中心 | 英語中心(国際対応) |
配置ルール | 寸法線・注記位置が厳密 | 柔軟性あり(CAD環境に依存) |
海外との図面交換では、記号の意味や配置が異なる場合があるため、凡例や注記で明示することが重要です。
5. 実務での注意点とチェックリスト
- 文字サイズは図面密度に応じて調整し、視認性を確保
- 記号の意味を誤って使うと、加工・検査ミスの原因になる
- CADテンプレートで文字・記号のスタイルを統一する
- 表題欄・寸法欄・注記欄で記号の配置ルールを徹底
- 国際取引ではISO記号との互換性を確認する
- 溶接記号や表面粗さ記号はJIS Z規格に準拠して正しく記載する
結論
文字と記号は、機械製図における「情報の言語」であり、図面の品質と信頼性を左右する重要な要素です。特にJIS規格では、寸法・形状・加工方法・材質・ねじ・板厚・溶接などを簡潔に伝えるための記号体系が整備されており、設計者の意図を瞬時に読み取れる図面づくりが可能になります。
正しい記号の使用は、設計者の意図を明確に伝えるだけでなく、加工ミスや組立不良の防止にもつながります。JIS規格に準拠した記号体系を活用することで、図面の信頼性と製造現場との連携が大きく向上します。
IDEA Groupでは、JIS規格に準拠した文字・記号の運用ルールを徹底し、図面の品質向上と設計業務の効率化を支援しています。
図面テンプレートの整備や記号運用に関するご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。